バレエ 「マノン」を観て
                           川島道子

3・31

先日、小春ママさんが30年前に観て強い印象を持たれたバレエ「マノン」を見せて
頂ました。イギリス、ロイヤルバレエ団の作品で、当時レーザーディスクだったものが
DVD化されていて、30年前の作品を私も楽しむことができました。
私は若いころからバレエやオペラが好きで、映像で長い間楽しんできました。バレエと
いえば「白鳥の湖」や「ジゼル」「眠れる森の美女」など妖精や変身譚、お伽話の
世界が中心で、その夢幻的な舞台に惹かれ、60年近い歳月の間、どれだけ多くの
バレエに親しんできたことでしょうか。

18世紀の退廃的なパリを舞台に、ファムファタル(男たちを破滅させる魔性の女)な
美少女マノンと純情な青年デ・グリュウの恋を描いたフランス文学「マノンレスコー」は、
映画やオペラに多く作られてきました。

戦後まもなく作られた映画「情婦マノン」は舞台を現代に置き換えて、マノンを
演じたセシル・オーブリーの熱演もあって、ヴぇネチア映画祭で賞をとりました。
ラストのデ・グリューがマノンの死体を担いで砂漠をさまようシーンは、衝撃的で
当時話題になりました。


オペラでも時代を19世紀末にして人気ソプラノ歌手アンナ・ネトレプコが
マスネーのオペラ「マノン」を演じています。


アンナ・ネトレプコのマノンは、その美しい声と美貌で世紀末に生きた薄倖の女性を熱演し、
ネトレプコならではのマノンで、観るもの聞くものを圧倒しました。


しかしイギリス、ロイヤルバレエ団の「マノン」を観て、アベ・プレボウの「マノン・レスコウ」を表現するには、
バレエこそ一番ふさわしいのではと思いました。


原作「マノン・レスコウ」に描かれたマノンは、その美しさゆえに男性がほうっておけず、デ・グリューと恋に
落ちても、金持ちの貴族の誘惑に負けて贅沢な生活をおくる。最終的にデ・グリューとの真実の恋を
選びますが、やがて破滅の道をたどることになります。


バレエの舞台は、退廃した18世紀のフランスの風俗が衣裳や舞台装置で
表現されていて、マノンが生きた時代の空気を思はせ、バレエが総合芸術で
あることを感じさせています。



ロイヤルバレエ団の「マノン」は振り付け家ケネス・マクミランの振り付けで、原作のマノンの「魔性の女」と
言われるにはあまりにも幼く、常に愛らしく、裏切られても何をされても愛さずにはいられない美少女が
表現されています。


私が今まで見てきたバレエとは異質のリフト(男性ダンサーが女性ダンサーを持ち上げる)を多用した
独創的な振り付けには圧倒されました。バレエには珍しい性的表現には賛否両論あったようですが、
私は「マノン」というバレエが秘める官能美を表現していたように思いました。


振り付け家ケネス・マクミランはセシル・オーブリー主演の映画「情婦マノン」を見て、イメージして
振付けたと言われていますが、セリフや歌のかわりに全身で能力の限界に挑むバレエの表現力は、
この物語のイメージをより深く表現しているように思いました。


音楽もマスネーのオペラの曲は使わず、有名な「エレジー(悲歌)」を中心に、マスネーの他の曲を
織り交ぜながら編曲されていて、「エレジー」が薄倖のマノンの生涯を象徴しているように思いました。


この「マノン」と前後して見ました「ロミオ・ジュリエット」は、ともにケネス・マクミランの振り付けで、
その演劇的手法は、音楽と感情、振り付けが一つになっていて、この2作品が20世紀の傑作
と言われているのもうなづけました。


この「マノン」は作られたのが30年前という時間のギャップを越えて、観る者の心に迫ってくるような迫力があり、
私の今までのバレエ鑑賞の枠を広げてくれた作品となりました。パリオペラ座バレエ団とは対照的なイギリス
ロイヤルバレエ団の作風の違いは興味深く、今あらためてバレエでの表現について考えさせられています。
これからエレジーを聞くたびに、この「マノン」のバレエを思い出すのではと思いました。


写真は初めと終わりのは初演時のもので、その他はネットから引用しました。

地元で地道に定期公演の活動をしている岡本バレエ団が6月に「マノン」を公演するようです。