17 Feb. 2012


オペラの楽しさ Part3

川島道子


私が今もっともときめく世界、それはオペラ。
METライブビューイング2011年ー2012年度の作品「アンナ・ボレーナ」と
「ロデリンダ」を観てきました。「アンナ・ボレーナ」は今シーズンのオープニングを
飾った作品で、タイトルロール(題名役の歌手)を歌ったのはアンナ・ネトレプコでした。

「アンナ・ボレーナ」



「アンナ・ボレーナ」はイタリア名で、イギリス王ヘンリー八世の2番目の妃で不倫の疑いで
断頭台で処刑されたアン・ブーリンの悲劇を描いたオペラです。非業の最期を遂げた
アンブーリンについては映画でも「ブーリン家の姉妹」「1000日のアン」「わが命つきるとも」
で描かれています。エリザベス一世の母として知られています。



ドニゼッティはロッシーニやベッリーニとともに19世紀前半のイタリアを代表するオペラ作曲家
として人気を博しました。「アンナ・ボレーナ」はドニゼッティの名声を確立させたオペラですが、
タイトルロールを歌うソプラノ歌手は大変な力量が要求されるために、上演される機会が
ありませんでした。マリア・カラスが復活させたことで有名な作品で、メトロポリタン歌劇場
では初演になります。



男子の世継ぎを望むエンリーコ王(ヘンリー八世)は強引に前王妃と離婚して再婚した
アンナ・ボレーナ(アン・ブーリン)との間に男子が生まれず、次第に王妃アンナ・ボレーナの
女官ジョバンナ・セイモー(ジェーン・シーモア)を愛しはじめます。



エンリーコ王の心が自分から離れていく不安を感じはじめたアンナ王妃は、女官の
ジョバンナ・セイモーにその不安を語ります。一方ジョバンナも王の愛人であることを
隠しています。



そこへエンリーコ王の特赦で追放を解かれたアンナ王妃の初恋の人リッカルド・ペルシーが、
フランスから呼び戻されて登場します。



エンリーコ王はアンナ王妃とペルシーを会わせ家臣に監視を命じます。世継ぎの男子に
こだわって女官ジョバンナを愛し始めたエンリーコはアンナをはめるための謀略の輪を張り
巡らせていきます。



それと知らずにペルシーとの再会を喜んだアンナは、国王の計略通りにはめられていきます。
アンナは弁解しますが、聞き入れられず軟禁されてしまいます。



一人になったアンナの所に女官ジョバンナが来て、罪を認めて離婚すれば命は救われると説きますが、
アンナは命を不名誉で買いはしないと怒り、一方ジョバンナは耐え切れず王の愛人であることを
告白します。アンナはジョバンナの裏切りを怒りますが、最後には悪いのは国王と言って許します。



アンナは自分の名誉は汚さないでと懇願しますが、エンリーコは聞き入れずアンナに
姦通、反逆罪などの罪名で死刑を言い渡します。



ロンドン塔の牢獄に繋がれたアンナは自分のためにペルシーと兄までもが
死罪を宣告されたことを知ります。



絶望のあまり錯乱したアンナは一瞬正気に戻り、自分のために命を落とす二人に詫びますが、その時
新王妃を迎える祭りの音が聞こえてきます。アンナは気力を絞って悲しみの歌を歌う中で息をひきとります。



このオペラは全編をとおしてヒロインを歌う歌手の出番が多く、ベルカントオペラの軽やかさとドラマチックな要素
を併せ持つために、ソプラノ歌手の力量しだいで評価が変わると言われています。


ウイーン国立歌劇場の公演  右エリナーガランチャ

「アンナ・ボレーナ」を歌ったアンナ・ネトレプコは一足先にウイーン国立歌劇場で歌って成功を収めていましたが、
このMETでの上演では、深みのある豊かな声で熱演し、最後の狂乱の場のアリアは聞く者の胸をうちました。
映画のお陰でクロズアップされたときのネトレプコは、難曲を歌いきった満足感と会場の鳴り止まぬ拍手に
微笑んでいて、心なしか目がうるんでいたようで、全力をだしきったその姿に感動しました。

余談ですが、ジョバンナは私の好きなエリナ・ガランチャが歌う予定でしたが、体調の関係で出演がキャンセル
になったのがとても残念でした。

「オペラは芸術の中で自分という存在を心からゆさぶってくれる。その源は人間の声。声の力の計り知れない
力に今日も翻弄された。」というどなたかの感想がありましたが、私にとってもそれは共感できて、次のオペラへの
期待につながります。

「ロデリンダ」

「ロデリンダ」を観ようと思いましたのは、私の好きなルネフレミングが出演している
ことに、「ハレルヤコーラス」「水上の音楽」などのヘンデルの音楽が好きで、オペラの
「オンブラマイフ」や「私を泣かせて」などのアリアで関心を持っていたからです。
また以前に観た映画「カストラート」でバロックオペラにも興味がありました。


物語の時代は7世紀ごろの話ですが、オペラではヘンデルの生きた18世紀に移されていて、
戦死したと思はれていた王様が実は生存していて、国へ戻って苦難のうえに王位を奪回すると
いうお話です。



王妃ロデリンダは、夫である王ベルタリードが戦死したと聞き嘆いていますが、一方王位について
いるグリモアルドから結婚を迫られています。



一人息子と必死に生きているロデリンダ



ベルタリードの妹エドゥイージェはグリモアルドをひそかに愛しているが、ロデリンダに同情して
陰ながら助けています。



ベルタリード王は戦死したと伝えられていたが、実は生きていて国に帰り、ロデリンダやエドゥイージェの
助けで王位をグリモアルドから奪回します。



バロックオペラの特徴は、ストーリーよりもアリアや重唱を重視しますのでソロアリアが圧倒的に多く、
そのアリアも同じ歌詞を曲調を変えながら繰り返して歌うパターンが続き、このスタイルに初めは
驚きましたが、ダ・カーポ形式と言うそうで、ヘンデルの音楽の美しさに圧倒されました。



それよりも驚いたのは勇敢な王がカンターテナーだったことで、ロデリンダとの愛の二重唱はまるでソプラノとアルトの二重唱の
ようでカルチャーショックをうけました。ヘンデルの時代には教会では女性が歌うことを禁じていましたので、カストラートの存在は
知っていましたが、「ロデリンダ」ではまわりの歌手たちとくらべると声の質が特殊過ぎ、勇猛な王様が登場するたびに違和感を
感じました。


変声期前の少年時代に去勢した男性歌手をカストラート歌手と言うそうですが、映画の「カストラート」で
その独特の声(合成)を再現していましたが、その声は強烈な迫力と魅力があり、ヘンデルの時代に
もてはやされたのが推測されました。この「ロデリンダ」をはじめヘンデルに代表されるバロックオペラは
カストラートの存在を前提につくられたのですから、カストラートのいない現代では、それに代って
カンターテナーが歌っているようです。私のように驚くのは可笑しいのかも知れません。


現在バロックオペラの人気が若い人たちにも広がっているようで、長い間忘れられていたバロックオペラの復活
のきざしが出てきていると言われています。もともとは小劇場で上演されていたオペラが、メトロポリタン歌劇場の
ような大劇場で上演されたのがなによりの証拠ではないかと思いました。私も「ロデリンダ」によってヘンデルのオペラの
世界に一歩足を踏み入れることが出来ました。METライブビューイングのお陰で、今までの鑑賞のマンネリズムから
脱してオペラの世界が広がったことはなにより嬉しいことでした。



編集部注 : オペラの楽しさ Part1 Part2 もどうぞ・・・・・