17 Dec. 2010

大塚国際美術館 −k.mitikoさんに捧ぐ−

v.K. 

k.mitikoさん、

あなたが紹介された数々の女性史、毎回非常に興味深く拝読
しています。まるで世界中を駆けめぐり、現地で取材された
かのようです。その様なあなたが最近、外国へ簡単に行ける
わけでもない趣旨のことを述べておられました。絵画を鑑賞
するにしてもほとんどの場合有名な芸術品の極々一部を自分
の目で見るだけで、後は書籍とメディアに頼らざるを得ませ
ん。しかし実は世界の有名な絵画をほとんど実物そのままに
複製し、私たちに見せてくれる美術館が日本にあるのです。
それが今回紹介する、徳島県鳴門市の大塚国際美術館です。

 

この美術館はポカリスエットやオロナミンCで知られる大塚
グループが開設したもので、大塚製薬発祥の工場に隣接した
里山に穴を掘り、美術館は地中にあります。ここに泰西の名
画約
1000点が陶板に焼き付けられて実物大で再現されていま
す。陶板だから大きさに制限があり、ほとんどの展示品で陶
板を繋ぐ格子状の線が入っています。しかしそれであっても
複製の見事さ、感嘆せずには居られません。

 

入館するとそこは地下3階。入ってすぐの所にヴァティカン
のシスティーナ礼拝堂が再現されています。今回初めて行っ
M.v.K.はどうせコピーだろうもんと高をくくっていました
が、このシスティーナ礼拝堂に入った瞬間、虜になってしま
いました。

≪システィーナ礼拝堂≫ ヴァティカン

「ベンベヌーティ・アラ・カペラ! 礼拝堂にようこそ!」
と笑顔で迎えられたヴァティカンのシスティーナ礼拝堂。で
も中は暗く、ゆっくりミケランジェロを鑑賞するには人が溢
れすぎていました。それが観光の現実なのですが、、

 

ここ大塚国際美術館ではミケランジェロの≪最後の審判≫
15351541年)を鮮やかな色彩で、ゆっくり鑑賞できます。

筋骨たくましいキリストも、バルトロメが左手にぶら下げて
いるミケランジェロの抜け殻も、すぐ近くに見ることが出来
ます。

 

天井にはやはりミケランジェロの≪創世記≫ 15081512

こちらは≪最後の審判≫より約30年ほど早く描かれました。
陶板を並べたものであるから碁盤目状に線が入っています。
それでも実物大の迫力はすごい。

 

≪スクロヴェーニ礼拝堂≫

北イタリア、ヴェネチアの近くにパドヴァという都市があり
ます。そこにあるスクロヴェーニ礼拝堂は非常に芸術的価値
の高い建築だと聞いていましたが、まだ行ったことはありま
せん。
14世紀イタリアの高名な画家ジョットが描いた聖書の
中の場面、イェスの生涯が有名です。スクロヴェーニは当時
の有名な商人です。余りにも有名だったため、先代スクロヴ
ェーニはダンテの神曲にも強欲で地獄に墜ちる商人として描
かれています。このチャペルを造ったスクロヴェーニは自ら
が地獄に堕ちる恐怖におののき、先代の汚名を雪ごうと、大
枚の金をかけてこのチャペルを建立しました。ジョットを雇
って絵を描かせただけでも一商人では出来かねるほど金がか
かるでしょうが、豪華を極めたのは高価な顔料ラピスラズリ
をふんだんに使った、群青色の天井です。

 

ラピスラズリ(lapis lasili、青い石)は遠くアフガニスタンか
ら運んできた原石を砕いて作った顔料です。

金箔を貼るのと同じくらい金がかかるのです。金閣寺は将軍
足利義満にして初めて建てることが出来た豪奢な建築です。
スクロヴェーニはそれに匹敵するくらい豪奢なチャペルを建
てたのです。

 

これはポンペイの秘儀荘と呼ばれる邸宅にある壁画です。

私はまだポンペイに行ったことがありませんがこの朱がかっ
た赤色はポンペイ赤と言って大変有名なのだそうです。そし
て大塚国際美術館の陶板焼き付け技術はポンペイ赤を美事に
再現したことで、世界の美術館から高い評価を得たそうです。
ポンペイの秘儀荘にあるこの部屋は立ち入り禁止になってい
ます。ここ大塚国際美術館のほうが本物以上に古代ポンペイ
が残した美術に間近に触れることが出来ます。

 

≪獅子狩り≫ モザイク ペラ考古学博物館 ギリシア

アレキサンドロス大王と従者がライオンと戦っている。でも
正確には獅子狩りではない。なぜなら、狩りを示すアトリビ
ュート
attribute の犬が描かれてません。よく見ると大王(左)
の左足はライオンに踏まれており、大王はひるんでいます。
実は大王が獅子に襲われた場面が描かれているのです。

 

このモザイク画を拡大すると、単に写真に撮って焼き付けた
だけのものではないことがよく判ります。モザイクの一つ一
つを細かい陶板として焼き、それを大きな陶板に貼り付けて、
まさにモザイク画を制作したのです。だから凹凸があります。

 

≪皇帝ユスティニアヌスと随臣達≫ サン・ビターレ聖堂 
547年 ラベンナ/イタリア

編集長も訪れた世界遺産のバジリカの壁を飾っています。こ
れもモザイク画ですが、再現方法は異なり、表面はモザイク
を柔らかい壁に貼り付けたときの凹凸が美事に再現されてい
ます。どうやって陶板にこのような技術が可能なのでしょう?

 

≪最後の晩餐(修復前)≫ レオナルド・ダ・ヴィンチ 1519年 
サンタ・マリア・デッレ・グラーツィエ修道院 ミラノ/イタリア

 

向かい側には≪最後の晩餐(修復後)

 

修復された絵では、皿の中に魚の切り身と、その上に切った
レモンが添えてあるのが判った。

 

≪マリー・ド・メディシスのマルセイユ上陸≫ リュベンス
(ルーベンス) 
1625年 ルーブル美術館 パリ/フランス

k.mitikoさん、たしかあなたはこの絵を紹介されませんでした
か? 水の精がざわめきあい、擬人化されたフランスがマリ
ー・ド・メディシスを出迎えてひざまずくこの場面に記憶が
あります。動感溢れるこのバロック絵画もここ大塚国際美術
館で間近に目にすることが出来ます。余談ですが、ルーベン
ス作アンヌ・ド’ォトリッシュの生涯も確か紹介されました
ね。

 

≪モナ・リザ≫ レオナルド・ダ・ヴィンチ 1507年頃 ル
ーブル美術館 パリ/フランス

ここでは防弾ガラスもなく、横でこのように記念写真を撮り
ました。

 

ところで、この大塚国際美術館は西洋絵画を系統的に学習で
きるよう、時代、絵画史、国などを十分検討して代表的な作
品を数点ずつ選んで展示しています。それゆえこの美術館は
同時に学習館、教育施設として非常に優れたものと言えます。
その一つが次に紹介する作品です。

≪貧乏詩人≫ カール・シュピッツヴェーク 1839年 ノイ
エ・ピナコテーク ミュンヘン/ドイツ

この絵を見つけたとき、成る程な、と感心しました。シュピ
ッツヴェークは日本ではほとんど知られていないが、しかし
彼はドイツロマン派でしかもビーダーマイヤー時代を代表す
る画家なので、たしかに絵画史の流れを教育的に説明するに
は欠かせません。

ビーダーマイヤー時代とはドイツ、オーストリア、スイス、
チェコ、ハンガリーなど
19世紀のドイツ語圏だけに見られる、
庶民の飾り気のない家具などに代表される文化の一時代です。

 

シュピッツヴェークはもてない男、冴えない男、だめ男をあ
る時は哀愁を漂わせて、ある時はコミカルに愛情籠めて描き
ました。この絵では雨漏りする屋根裏部屋で、売れない詩人
が指で韻を数えながら、つまりそれが才能がパッとしないわ
けだが、詩を作っています。

 

ところで、下部中央にある妙な格好の道具は何か解ります
か? 長靴(ブーツ)を脱ぐとき凹部に踝(くるぶし)を引
っかけて脱ぎます。今日では乗馬靴を脱ぐときくらいしか使
う機会がないでしょうが。

 

≪ゲルニカ≫ パブロ・ピカソ 1937年 レイナ・ソフィア
国立美術館 マドリード/スペイン

20世紀最も重要な作品の一つと評されている。描かれた子供、
女、男、牛、馬の表情は苦痛にゆがみ、反戦という言葉では
重みが足りず、戦争への怒り、憎悪、愚弄、侮蔑が表現され
ていると言えよう。ただ、凡庸な私にはこれより
123年前に
描かれたゴヤの次の絵のほうが解りやすい。

 

1808513日:プリンシペ・ピオの丘での銃殺≫ フ
ランシスコ・デ・ゴヤ 
1814年 プラド美術館 マドリード
/スペイン

ナポレオン軍による虐殺を激しく非難した絵であります。

 

 

さて、大塚国際美術館には世界名画約1000点が陶板に焼き付
けられて展示されています。そのうちほんの数点をモザイク
風にまとめてみました。以下に紹介する名画の数々、
k.mitiko
さんも皆さんも、ご記憶にあるでしょう。

≪百花繚乱 その1≫

想像するに、大塚国際美術館が世界の有名美術館に趣旨を説
明して頭を下げてお願いしても、最初は理解してもらえなか
ったのではないでしょうか?
夢を実現したのはユニークな
発想と技術力でした。先に述べたようにポンペイの赤色を見
事に再現したことから、各地の美術館は陶板化を許可しまし
た。

 

≪百花繚乱 その2≫

どこかで見た名画の数々。ミレイ、スーラ、セガンティーニ、
セザンヌ、ポロック、ムンク、ルッソー、フリートリヒ、、、

 

≪百花繚乱 その3 受胎告知≫

受胎告知は中世からルネサンス期さらには近世に到るまで数
多く描かれました。ウィキペデイアで受胎告知を検索すると、
英語版では
37点の絵が、ドイツ語版では3点の絵が、イタリ
ア語版では十を超えるサイトで約
20点の絵が紹介されていま
す。大塚国際美術館では
17点の受胎告知が展示されています。
数多い受胎告知の中でもっとも有名なものの一つがレオナル
ド・ダ・ヴィンチ作であることは疑う余地がありません。

 

≪百花繚乱 その4

大塚国際美術館に協力した美術館の名を掲げると目が眩み
そうです;

ウフィツィ、アカデミア、ヴァティカン、ナポリ国立(イタ
リア)
プラド(スペイン)ルーヴル、オルセー、オラン
ジェリー(フランス)
テートギャラリー、ナショナルギャ
ラリー(英国)
アルテ・ピナコテーク、アルテ・マイスタ
ー(ドイツ)
美術史美術館(オーストリア)アムステル
ダム国立(オランダ)
アントヴェルペン王立(ベルギー)、
オスロ国立(ノルウェー)
エルミタージュ、(ロシア)
ナショナルギャラリー、
メトロポリタン、ボストン、グッゲ
ンハイム、シカゴ美術研究所(アメリカ)

もっともっとあります。

 

名画鑑賞を終えるとがらりと趣向を変えて鳴門の渦潮見学で
す。美術館から徒歩でも行けるところに観光船乗り場があり
ます。上には大鳴門橋(おおなるときょう)、向こうは淡路島。

 

次女Klaraもやって来て、楽しい休日でした。

 

どうですk.mitikoさん、大塚国際美術館に行ってみませんか? 
大塚国際美術館に行くのは神戸経由が便利です。博多から山
陽新幹線に乗って新神戸駅で降り、三宮から高速バスで一時
間半。淡路島を縦断して鳴門海峡にかかる大鳴門橋を渡りき
って四国の地を踏んだところにこの美術館はあります。旅行
社から大原美術館(倉敷市)などとセットにしたパックツア
ーも出ています。